ゴスペルとグルーヴ

 ジャム・バンドと言えば、2001年トライベッカ(マンハッタン、NY)のライブ・ハウス「ウエット・ランド」でのRobert RandolphのLive at Wetlandが懐かしい。ロバート・ランドルフの演奏するのスティール・ギター。我々の世代ではハワイアン音楽の楽器だ。しかしゴスペルの歴史を調べると、オルガンを買えない貧しい黒人教会ではスティール・ギターを使っていたらしい。スティール・ギターによるゴスペルのバンドやレコードはけっこうあります。
 ギターとブラック・ミュージックと言えばブルースだが、ギター・エバンジェリストのようにブルースではなく、ギターでゴスペルを歌う伝道者もいた。因みにgospelはgood spellの合体・短縮形でgood news(福音)の意味、evangelも同様にギリシャ語のgood newsでキリストによって世界が救われるという福音。しかしその演奏を聴くともろブルースです。つまりゴスペルは救いを歌うコンテンツがあれば、入れ物(楽器と歌い方)はブルースでも、後のソウルでもいいという事になる。コンテンポラリー・ゴスペルのK・フランクリンやメアリー・メアリーではラップも使う何ともクロスオーヴァーでハイブリッドな音楽ジャンルなんですね。実際、アフリカ系黒人のラップの伝統が讃美歌を歌う前の牧師の説教と重なるのは、黒人教会での日曜日のミサを映像で見た方は想像できると思う。
 で、ロバート・ランドルフの"Pressin' My Way"。「自分の道をみつけた」というゴスペル的な内容をスティール・ギターとオルガンで奏でるそのジャム的な演奏は、楽器のアドリブと"I feel like pressin' my way"というコーラスのリフレインの中で、earthy(大地に根を下ろした、素朴な)でかつ、天上的(天の神に向かって歌う)なグルーヴ(うねり)が生まれてくる。このグルーヴはライブの場における演奏者と聴衆のパルス(身体的な波長)の共有だと思う。