若者文化のヒエラルヒー

 S・J・ローザンの『冬そして夜』を読む。何でも昨年のベスト・ミステリの3位だとか。最近この手のべストはいくつかあって、それにのって書店も平積みにしている。アメリカ探偵作家クラブ (Mystery Writers of America)によって前年にアメリカで発表されたミステリの分野の作品から選ばれた最優秀賞受賞作と言う。
 うん、読んでやろうじゃないのと二日酔いの頭を抱えながら読んでみたら、悪くない。最近映画やその原作本に対し批判的なコメントが続いて少し反省している。と言うのはできればこれはいいですよと言うお勧め本・映画・CDについて書きたいのです。貶す話はあまり聞きたくない(と思う)。。良くないものは無視すればいいでの、いいと思うものについて評価するようなブログでありたい。でも評判になったり、読んでみて今一だったりするものも一応取り上げなければというスタンスもある。
 で、今回は悪くなかった。ずいぶんと地味な語り口、キャラクター、物語の展開ではあるが。ニューヨークに住む探偵が警察から甥(妹の息子15歳)が拘置されているとの連絡を受け取る。そんな風に始まる物語はシリーズ8作目にしてはじめて主人公ビル・スミスの過去が明らかになる。ビルの経験した父親による暴力は家庭を破壊してしまった。そんな中で離ればなれになっていた妹は夫の故郷であるニュージャージーの郊外の町に落ち着いたのだったが。
 そのテーマが郊外の町、アメフトの選手がヒーローでその試合が町の唯一の関心事であり、選手以外の高校生は落ちこぼれとなる狭い世界が描かれる。サブ・テキストとして『ハイスクールUSA―アメリカ学園映画のすべて』(国書刊行会)を援用すると、高校生のヒエラルヒーがよく分かる。男の子のトップは体育系の生徒jocks、女の子のトップはqueen bee、優等生はpreps、がり勉はbrainまたはplayanics、コンピュータおたくはgeek、単なる変わり者はnerdsまたはfreaks、芸術系はatrtie、取り巻きはsidekicks,またはwannabe、パシリはmessenger、逸れっ子はfloaterまたはgoth。
 ふー難しい。jocksはスポーツ用のサポーターから、queen beeは女王蜂で分かりやすい。prepsはエリート予備軍、sidekicksは相棒、wannabeは〜に憧れる人。floaterはどのグループにも所属しない人か。gothって黒っぽいメークとファッションの写真も見たような気がする。
 そしてコロンバイン高校の悲劇はこのような地方の高校の中の序列やいじめが銃文化のなかで暴発したと考えられる。犯人の少年たちは狭い世界の中でloserとしていじめのtargetになり、行き場もなく他の方法を考えられずに、その結果手に入る大量の銃器で多くの人を巻き添えにして復讐と自死を遂げてしまった。『冬そして夜』では主人公の甥はjocksでありながらfreeksとされる友達を助けようとして大けがをする。事件の背後には昔のスキャンダルで犯人をかばった父親や、当時の犯人で現在は街の顔役が罰を受けて大団円とはならない。何かすっきりしない、でもそれが現実なんだよとそれなりに納得するような展開です。
 スーパー・ボールで勝ったスティーラーズってピッツバーグのSteelers(鉄鋼の町の人々、鉄鋼労働者)なんですね。でもMotown(自動車の町デトロイト)のようにそのうち街自体が寂れるのではないかと心配です。
 映像は映画Elephantの目的に向かう少年たち静かな後姿。