Caryl Phillipsにふれる

 クロード・マッケイの生まれたジャマイカからセント・キッツに目を転ずると、キャリル・フィリップスがいる。生後間もなくイギリスに移住したフィリップスは、イギリスにいても外部の人間とみなされる。しかしセント・キャッツを自分の帰属する場所とも考えられない。
 マッケイと同様、自分とは何者か、自分はどこにいるのかというディスポラ的パラダイムを共有する黒人の歴史は長く深い。そのフィリップスも現在はアメリカとセント・キッツに住みながら、大西洋を行き来しているというから、ブラック・アトランティック的な生き方を体現しているというか、もしくは悪名高い三角貿易の航路を批判的に再現しているようにも見える。
 唯一の翻訳『新しい世界のかたち』の構成自体が、自分のいる場所が自分の所属するところではない、と繰り返される、カリブ〜イギリス〜アメリカ〜アフリカ、というトランス・アトランティックな世界観を表明している。そこにはオルタナティヴな公共圏が大西洋のどこかに生まれる可能性と秘めている。”The Final Passage"はチャールズ・ジョンソンの『中間航路』を意識しているだろうが、キャリルの「最終航路」はもちろんカリブ海アメリカではないだろうし、またカリブ海〜イギリスでもないだろう。目的地は大西洋のどこか、憧憬する帰属地、または帰属する事を拒否する態度そのもの・・・