郊外を描く映画

 アメリカの郊外を描く映画はいくつもあるが、『エデンよりも彼方に』(2003年、トッド・ヘインズ監督)もその一つだ。トッド・ヘインズと聞いて『ベルベット・ゴールドマイン』を思い出すのはかなりの映画好きか音楽好きだろう。

 しかしこの新作は1950年代のニューイングランドの郊外を舞台としたメロドラマである。恵まれた環境に生きる白人中流の主婦が夫がゲイであることを知り悩む。彼女は知的な黒人男性の植木屋と心を通わせるが周囲の反対にあう。

 あ、これってダグラス・サークの『天はすべてを許す』と同じだと思う。その通り、『エデンよりも彼方に』はダグラス・サークへのオマージュを込めた『天はすべてを許す』のリメイクだった。しかもゲイの夫という要素が背景に退いているが、バイ・セクシュアルのグラム・ロッカーを主人公とした『ベルベット・ゴールドマイン』の監督による設定である事が分かる。

 そう考えればあまりに美しい風景と衣装と映像は50年代の白人中流家庭の幸福の虚構性をイメージしたのだ納得する。メロドラマ仕立てもそう。メロドラマそのものではなくメタ・メロドラマという視点。サークの白人の植木屋は、黒人に変わるのが現代からみた50年代への批判的視点だろうか。主人公の親友は友人の夫がゲイである事にはある程度理解を示すが、黒人との交流には批判的なのが興味深い。

 でも実はオリジナルで白人の植木屋を演じたロック・ハドソンエイズで亡くなったゲイであった事を知ると、そこには監督も意識しない二重の偏見と差別が隠されている。僕の亡くなった父親が植木屋だったので、学生時代にバイト気分で手伝った事がある。植木屋って職人だが、芸術家的な一面と屋外労働者の部分が共存するような気がする。

 『エデンよりも彼方に』のジュリアン・ムーアはもちろん、植木屋を演じたデニス・へイスバートはヒットTV『24時間』で黒人大統領、『マンデラの名もなき看守』でも後に大統領になる人物を演じて売れっ子になりつつある。