『ドファララ門』体験

ジャズ・ピアニストにして文筆家である山下洋輔さんの『ドファララ門』(晶文社、2014年12月)をとても楽しく読んだ。20年前に父方の祖父が建てた鹿児島の刑務所を発見したピアニストは明治維新西郷隆盛と、日本のみならず欧米の刑務所をライブをやりながら見聞していく『ドバラダ門』を書いた。その3年後には西郷の肖像画をめぐる補遺『ドバラダ門乱入帖』が書かれた。そして古希を迎えたジャズ・ピアニストは母方の血筋をたどる。
 この片方の血筋が音楽的遺伝子の継承者だった。母方の祖父は司法大臣、しかしその家系には様々な音楽家が出現する。最後ではいいとこのお坊ちゃんである事を筆者も認めているけれど、その恵まれた血筋が政界・財界の生臭いとこところに発現していくのではなく、建築や音楽の分野で文化的な豊かさが育まれているとところが好ましい。家系から来る人脈は、筆者の音楽活動による人脈によって広がり、そして明らかになった小さい事実を詳しく調べていく姿勢はかなり学究的もである。もちろん、また筆者旧知の筒井康隆タモリ、そして落語の影響も含めての、フリージャズ的な文章が面白いのだ。
 洋輔さんは先輩の知り合いで、札幌でライブの打ち上げなどでも話した事もあるので、ついさん付けに。