ウェスタン・ノワール

パトリック・デウィットの『シスターズ・ブラザーズ』という文庫本を見つけて読みました。面白いウェスタン・ノベルです。関連してあまり知られていない西部小説の方を少し紹介してから、当の作品を書評しようと思います。
このジャンルには、アメリカには二人の有名な書き手がいて、ゼイン・グレイとルイス・ラムーアです。ゼイン・グレイ(1872年 - 1939年)の方は、作家・脚本家で、書いたジャンルは冒険小説・西部小説・野球小説。100以上の映画、テレビシリーズに原作や脚本を書いて、本も90冊以上。多くはベストセラーになったらしい。ただ映画創成期からの西部劇のタイトルをImdb(Internet movie data base)で見ても、見事に知らない作品ばかりでした。ただ1931年のRiders of Purple Stageを1996年にリメークしていてエド・ハリスが主演しています。後述の『アパルーサの決闘』(2008)で監督・主演をしたハリスでした。
もう一人はルイス・ラムーア(1908−88)でWestern novelのアメリカの国民的作家ですが、日本ではほぼ無名。本人は'frontier stories'と呼んでいたらしい。さらに歴史小説・SF・ノンフィクション・詩まで書いた作家でした。TV西部劇も映画化も多いけれど、西部劇ファンしか知らないような作品が多いです。僕が知っているのはユル・ブリンナー主演の『マーべリックの黄金』(1971)くらいかな。
ジャック・シェーファー原作の『シェーン』(1952)と、チャールズ・ポーティス原作の『勇気ある追跡』(1969)と『トゥルー・グリット』(2010)については前に書いたのでパス。
 スペンサー・シリーズで有名なロバート・B・パーカーは晩年西部小説に手を染めた事もふれた事はありますので、ダブらないように。『ガンマンの伝説』(2001)でワイアット・アープを主人公とした後、オリジナルのガンマンを主人公とした『アパルーサの決闘』(2005)、 『レゾリュージョンの対決』(2008)、 『ブリムストーンの激突』(2009)を書いています。そこでも見事に女性嫌いの通奏低音が流れているような。『アパルーサの決闘』をエド・ハリスが監督し、主人公のヴァ―ジル・コールを演じています。相棒のエバレット・ヒッチはヴィゴ・モーテンセン、魅力的だけれど不実な女にはレネー・ゼルウィガー。ハリスは2000年にジャクソン・ポロックの伝記映画を主演を兼ねて撮っているけれど、監督としての才能もあります。
 さてこのような歴史と伝統があるけれど、先細りになりつつあるジャンルの最新作はどうだろうか。『シスターズ・ブラザーズ』は文庫解説で「ウェスタン・ノワール」という評言があったので頂いたけれど、読むと「オフビート・ウェスタン」ですね。さすがにブッカ―賞最終候補になっただけの事はあり、かなり面白くて読ませます。文庫本の裏表紙にあった「ブラッディ&ブラック」も当たっている。シスターズと云う苗字の殺し屋兄弟(ブラザーズ)の残忍さが凄惨でなく、リアルから外れてブラック・ユーモアになっているんです。ノワールの暗さではない。
 それとゴールド・ラッシュ時代(1840年代)を舞台にオレゴンからカリフォルニアに(人殺しの)仕事に赴くロード・ノベル的要素も強い。殺し屋のシスターズ兄弟は、「提督」の異名を持つ元締めと言うか雇い主に命じられて、ある山師を殺すべくサンフランシスコに向かいます。その旅において、兄弟が出会う魔女のような老婆、連いてきたがる少年、道具を貸してくれないので皆殺しにしてしまう狩人たち。いま校正をしている『越境』の主人公ビリーとボイドのパーナム兄弟も何も得られない無益な旅を続けていたが、このシスターズ兄弟もまた。 そしてその意味は、または無意味の意味は?