ファクトリー・ウーマン

スターチャンネルで見た『ファクトリー・ウーマン』(2010)が面白かった。『カレンダー・ガール』(2003)のナイジェル・コール監督の作品。原題はMade in Dagenham。ロンドン東部の町ダゲナムのフォード自動車工場の男女賃金格差に反対した女性従業員のストライキの話です。
 良かったのは、主人公が等身大のヒロインである事、深刻な話にユーモアを交えた事、歴史的な背景があって勉強になった点などで、傑作とは言えないけれど観て気持ちのいい佳作でした。
 最初は投票でリーダーに選ばれたコニーが夫の精神衰弱のためにやめ、代わりのリーダーになる主人公のリタが特別な選ばれた女性でない点がリアルで共感を呼ぶ。また彼女を取り巻くモデルに憧れている若い女性。彼女は一時みんなを裏切りスト破りをしますが、また仲間の元に戻る。コニーは夫が自殺をして、リタと一時仲たがいをする。リタの夫は頼りない好人物ですが、妻を理解しつつも男性工員を巻き込む女性のストライキと、成長していく妻を誇りに思いつつも戸惑いを隠せない。
また若き工場長の妻リサが階級・学歴・容姿など圧倒的に恵まれているようで、夫に女中のように扱われていて、リタの行動力を羨ましく感じているのは少し無理があるかな。リサが坊ちゃんぽい夫に何故きちんと理を立てて反抗できないかが描かれていないので。リサを演じるロザムンド・パイク自身がオックスフォード出身の高学歴・高身長なので、リタを演じるサリー・ホーキンスとの見た目の差が面白いけれど。
最後の方で、リタたちが会う女性大臣(雇用担当)を演じるのがミランダ・リチャードソン労働党の仲間である首相が理想を失って現実主義に埋没しているのを物足りなく思っている。そして女性のストライキのリーダーたちと会おうとするが、フォード本社のアメリカから責任者が来て、イギリスで一番雇用の多い工場の撤退をちらつかされると少し、政治的に現実的に理想を曲げざるを得ない。が、最後には女性労働者の支持に回るというなかなかいい役を余裕をもって演じています。
 そのミランダ・リチャードソンが1992年に出演した『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダン監督の『モナリザ』(1986年)に出ていたボブ・ホスキンスが、女子工員の団結を温かく見守るいい役で出ていました。男の組合指導者を信用するなとリサたちにいうアルバート(ホスキンス)は、薄給で働き続けた母親の思い出から働く女性に共感するという役柄です。
ミネット・ウォルターズの『遮断』でも論評したように、リアルさがキーだと思う。つまり普通の人間が不平等な現実の中で、信念を持つようなり、右往左往しながらもそれを守り通す。最初から理想を持っているヒーローではなく、次第に世界の不条理に気づき、自分の能力の限界の中で正義を貫こうとする人間の成長が共感を呼ぶのだろうと思います。