郊外と若者文化

 3年ゼミのヘビメタ少女をゴスっぽい格好と言ったが、それに関連するアメリカの若者のコミュニティ(特に高校)のヒエラルヒーについて興味があった。実はアメリカの高校を舞台としたハリウッド製の青春映画はかなり多いのだが、それに関しては後述するとして、直接的にはS・J・ローザンの『冬そして夜』(創元推理文庫、2008年)だった。ニューヨークのチャイナタウンで私立探偵をしている中国系のリディアとアイルランド系のビルの二人が交互に主役を務めるシリーズの8作目"Winter andNight"で、2003年のMWA(Mystery Writers of America)賞を受賞した。
 ビルは疎遠にしていた妹の息子ゲイリーがニューヨークの警察に捕まり、引き取りに出向く。ゲイリーはニュージャージーに家族と住むフットボール部所属の15歳の高校1年生。ビルはゲーリーから地元の誇りである高校のフットボール部を中心とする、郊外の閉鎖性、そして若者のゆがんだ階級意識について教えられる。因みにこのゲーリーフットボール部の有望な選手でありながら、おたくの級友の事も心配しているバランスのとれた、共感を得るキャラクターとして描かれている。
 さて殺人事件にまで発展した郊外の高級住宅街の捜査を始めたビルは、ゲーリー同級生から若者の用語についてレクチャーを受ける。体育会系の部員はJocks、かっこいいヒーローとみなされ、それはそのままいじめっ子にもなる。
 その下にCowboy,酒やマリファナ、喧嘩やいじめをするやから。これは別の文献?ではBad Boyとされていてほぼ同じカテゴリーに入ると思われる。
 次に来るのがBrainiacs, Geeks, Artie, Tree Huggersと説明がある。Brainiacsは普通Brainで「頭でっかち」でしょうね。Geeksは普通「コンピューターおたく」を指す。 Artieは「芸術系」か。Tree Huggersは初めて聞いたが、「「木にしがみ付く人」で、訳と言うかルビでは「エコマニア」とされていえ、ほぼ納得。この範疇にNerd、やはり「おたく」が入る。そしてFreaks(変人)とJunky(薬中)が一番下に来るらしい。
 これがきっかけになって、『ハイスクールUSA〜アメリカ学園映画のすべて〜』(国書刊行会、2006年)を参考文献として買い、少し上記の用語の知識を補強しました。あまり意味があるとは思えないけれど。
 それによると女子のトップはQeen Be、学園女王、プリンセスです。当然のようにチア・リーダーですね。その取り巻きが2ランクに分かれていて上に来るのがSidekicks,一般映画では「相棒」の事を指しますが。その下がWananabe, Pleaserのようです。Wananabeは例えば"I want to be Madonna."のwant to be"が圧縮してWananabe(〜の成りたがり)になりました。 Pleaserは「たかり屋」とこの本にはありましたが、「おべっか使い」の方が適切ではないかなと思います。
 取り巻き系ではない存在として、Preps、これはアイビー・リーグを目指す優等生、文科系の勝ち組だとか。そしてGothはヘビメタ系の黒っぽい衣装とメイクで体育会系とも文化系とも一線を画す。そしてFloaterは一匹狼の「はぐれっ子」。
 男子に戻ると、Slacker、テレビやロックや、ハッパを愛してまったりとのんびりと落ちこぼれる一群。そして最後列にはMessenger「ぱしり」や、Target{いじめられっ子)。このあたりになると少々うんざりしてくる。
 『ハイスクールUSA〜アメリカ学園映画のすべて〜』はかなり詳しく深くて80年代の映画好きには面白い。著者の長谷川町蔵さんと山崎まどかさんの掛け合いで語られる若者文化はその表層的なあり方の分析も含めて、この出版社(なんと国書刊行会だから)で出した意味はあると思う。ただアメリカの若者のこのような生態はハリウッド映画が詳しく描き続けているので、それを知っているとよりその意味が分かるけれど、分かってそれがどうなのというと、それに答えるのは難しいかも。
 写真は『ブレックファースト・クラブ』(1985)や『プリティ・イン・ピンク』(1986)などで絶大な人気のあったモリ―・リングウォルド。リングレッツというマニアックなファンもいたよう。