ウォートンは面白い

 8月に支部でウォートンの『無垢の時代』を取り上げてワークショップをする予定です。それでテキストを英語と翻訳で読み直しているのですが、これが面白い。ストーリー、登場人物、描写が間然とするところがない。1920年に1870年代のニューヨークを描いたのですが、上流階級の若者が婚約する時に、婚約予定の女性の従姉が結婚に破れてヨーロッパから帰国します。この時代と社会のルールに対して挑戦とした生き方に主人公のニューランド・アーチャーは次第に惹かれていきます。最初は婚約者のメイにいい意味での"innocense”を見て、芸術などを教えていけば理解できると想像していたのが、新しい経験に対して閉じた"innocense”である事が分かり、さらにオレンスカ伯爵夫人に惹かれていきます。
 その辺りの心理描写がヘンリー・ジェームズほどしつこく?なく、ほどほどで次の展開に読者を引きつけていきます。僕は一応最後までストーリーを知っていたのですが、それでもどんな風に次につながるのか引っ張られ続けました。感情的にはある種鈍感なメイが、ニューランドをエレン(オレンスカ伯爵夫人)から引き離すために使う策略が英語では分からず、翻訳でやっとそうだったのか理解できるような微妙な、いや絶妙なタイミングでの駆け引きがすごい。
 後に結婚して早死にするメイにとって一番重要なのは「面目」なのだと思いました。名誉ではなく、もっと現実的な、人から軽蔑されない、あまり高次元ではない人としての体面。それが伝統としきたりの中では重要なようです。
 ついで読んだ「イーサン・フロム」他の中編・短編はさほど面白くありませんでした。やはり、分厚い描写が可能な長編にこそ、イーディス・ウォートンの本領があるのだと思いました。それで今度は『歓喜の家』を読んでいます。これは1997年にフィラデルフィアで黒人男性の助教授の授業で読んだ作品でした。美人ではないけれどチャーミングな作家の写真を見つけたので。