年末のミステリ

 年末にはのんびりとミステリーを読む事になっていますが、そのナビゲーターは「週刊文春のミステリーベスト10」と「このミステリーがすごい」(宝島)です。そのセレクションが微妙に違うのも、また実際に読んだこちらの感想も違うのも面白い。
 双方の一致したベスト・ワンが『二流小説家』(デヴィッド・ゴードン、ハヤカワ・ポケット・ミステリー)です。これはいくつものペン・ネームでポルノやファンタジーを書いている二流小説家が、死刑直前の連続殺人鬼に告白本の執筆を依頼される物語。その過程で殺人犯の元彼女たちが猟奇的に殺され物語は意外な展開を見せるが・・・
 全体としては、深刻な連続殺人ものではなく、主人公(ハリー・ブロック)の作品の抜粋や、彼の文学論、作家論がはさまれ、いわゆる「メタ・ミステリー」(娯楽版)の趣もあります。またハリーはこの経験を踏まえて一流作家になるかというそんな事もなく、しかしその人の良さも変わらないと言う点で読後感は悪くありません。僕としては今年のベストとは言わないけれど、3,4位というポジションでしょうか。
 さてもう一つメタ・ミステリーとして、文春で9位、宝島で15位の『探偵術マニュアル』(ジェデダイア・ベリー、創元推理文庫)です。これは『二流小説家』よりももっとメタで、寓意的。批評にもポール・オースターカフカカルヴィーノなどの名前が出てきます。でもこれはミステリーと言うよりもファンタジーの側に軸足を置いた作品として読むほうがいいような気もします。
 そう言えば、前にも紹介したポランスキーで映画化された『ゴーストライター』もある種のメタ・ミステリーとして読めるような・・・