戦争について語る

 Tim O'Brein(ティム・オブライエン)の処女作 If I die in a Combat Zone(『僕が戦場で死んだら』、1973)と代表作The Things They Carried(『兵士の担う物』、1990)を続けて読んだ。
 そこでの印象は、戦場において人間が発揮する勇気や戦友との友情よりも,あまりにもあっけない死、その強烈に即物的かつ肉体的な破壊。恐怖と憎しみがないまぜになってもたらさされる殺人。
 ソンミ事件を扱ったオリバー・ストーン監督の『ピンクヴィル』と同名の地名が「5月のミ・ライ」(僕が戦場で死んだら』)に出てくる。そこは赤茶色の粘土質の地帯だが、名前の由来は軍用地図ではその地帯がピカピカ光る派手なピンク色で塗ってあるかららしい。

時間的にはミ・ライ地区ソン・ミ村での虐殺事件の後に、ティム・オブライエンは同地区に従軍したが同様の作戦があったらしい。『セントアンナの奇跡』で描かれたナチスによるイタリアの民間人の大量虐殺のような事件と違い、ベトナムの戦場では兵士がすれ違う少年や老婆がベトコンのシンパであるような事は普通に起きる。つまり兵士と民間人の区別のつかない戦場で、味方が殺されたら、兵士たちは不審な村など簡単に焼き払うだろう事は容易に想像できる。
 ポストモダン小説とミニマリズムの流行する70年代に書き始めたティム・オブライエンは戦争について書く事に意識的だが、戦争文学におけるメタ・フィクションというスタンスではなく、どうすれば「本当の戦争の話」ができるかを考え続ける。