パラレル・ワールドについて

 来週土曜日の司会の準備?としてSteve Erickson(スティーブ・エリクソン)の Our Ecstatic Daysと Sesshu Foster(セッシュウー・フォスター)の Atomik Aztexを読んでいる。
 エリクソンはロサンゼルスを舞台とした作品を書き続けているが、思っていたよりもintertextualな作家だった。インターテクストとは間テクスト性とも呼ばれる、作品の解釈において重要になる作品間の関係の事です。ある意味ではあらゆる文学テクストは先行する作品と関係しています。
 Our Ecstatic Daysにおいても主人公のKristineをはじめ多くの登場人物がエリクソンの前の作品にも登場している。では前の作品を読まないと当該作品が理解できないかと言うとそうではないし、そうであってはいけない。つまりここの作品は単独で自立している。しかし選考作品を読んでいる方が理解が深くなるのも事実。
 またロサンゼルスと言う都市も先行する作品の舞台となっている。、Days Between Stations(『彷徨う日々』)では砂に埋もれ、 Amnesiascope(『アムネジアスコープ』)は火災に見舞われ、そして Our Ecstatic Daysでは突如出現した湖に埋没する。つまりエリクソンはある意味でLA文学を書き続けている。
 さてparallel world(パラレル・ワールド)もしくはalternative history(もう一つの歴史)を描いた作品が Our Ecstatic Daysと Atomik Aztexをつないでいる。
 Our Ecstatic Daysの方は、Kristineが湖の出現の理由を探ろうとして、湖に飛び込んで戻ると息子のKirkがいなくなっていた。クリスティンは自分が戻った、息子の失踪したロサンゼルスをもう一つの世界ととらえる。
 セッシュウ・フォスター(名前と写真から日系アメリカ人作家)の『アトミック・アズテックス』はアステカ人がスペイン人に征服されなかったという世界を描く。それどころかアステカ人はヨーロッパを侵略しつつある。しかしアステカ人の指導者は、アステカがスペイン人に侵略されたという悪夢を夜毎みるようになる。そして現実と悪夢の距離がじょじょに近づいて行く。
 このようなパラレル・ワールドはSFによくある設定で、エリクソンも影響を受けたフィリップ・K・ディックの『高い城の男』が代表的。ここでは第2次世界大戦に日本が勝った世界が描かれる。しかも作中における本が日本とドイツが戦争に負けたという内容で重要なファクターとなる。
 第2次大戦で日本やドイツが勝ったという設定の作品は20数本もあるが、多くはパラレル・ワールドというよりは「もう一つの歴史」物と呼んだ方がよく、いわゆる「もし・・・だったら」という内容に終わる。しかしディックのパラレル・ワールドの世界の方は複雑で深い。つまりフィクションの中に史実がさらにフィクションとして埋め込まれている。読んでいて、世界の真実(そんなものがあるとして)はフィクションでは描かれ得ないから、フィクション上のリアリティを追求するメタ・フィクション性をSFに感じる稀有な例だ。しかもエリクソンやフォスターよりも読みやすい?!
 写真は『高い城の男』。星条旗の星の部分がハーケン・クロイツ、条の部分が日の丸の赤と白をもじっている。