メル・ギブソンの評価

 今週号の週刊『文春』に内田樹さんの「色あせない映画 オールタイム・ベスト10をえらぶ」というエッセイがありました。その中でメル・ブソン主演の『ペイバック』の中の身体論が面白かった。
 具体的には主人公のメル・ギブソンが金を返してもらいに行った先のギャングのボディガードを殴り倒す場面を取り上げて、その予備的な動作のない身体運用が武道的にも理にかなっているとする。例えばそのパンチにあまりスピードが無くても、相手の虚をつくと有効なのだろう。でもこれはテニスなどのスポーツに利用できるかまたあとで考えてみる事にしよう。
 またこの『ペイバック』における映像のリズムは、メル・ギブソンの身体運用だけでなく、場面転換も微妙に早くて、観客はその展開に呑みこまれて、場面と場面の間を自分で埋めようして、単なる観客よりも参加意識を持ってしまうと言う見解です。なるほど。
 内田さんはメル・ギブソンが背も低く、ハンサムでもないのにと言うけれど、『マッドマックス』で登場した時は初々しい青年でした。次第におっさんとなり、くどいキャラになったような気がしますが、自分をカッコよく見せる事にあまりこだわらないスタンスは好感が持てます。それに声の魅力もあります。声の力って大きいと思います。前にも容姿はそこそこだが声力のあるある俳優の紹介をした事があって、その辺りに関心があるような。
 この『ペイバック』は何故か中古ビデオ(VHS)も持っていて何度も見ています。ギャングのボスがはした金とみなす7万ドルを取り戻そうと、組織の幹部を次々に殺してボスのところにたどりつく。時にウエットな感もあるハードボイルドとは違い本当にドライで非情、でもユーモラス。また組織の意味を無視する小気味よさがあるような気がします。そして確かに場面展開と言うか、映画のスピードも主人公の行動に寄り添うように、テンポがいいかも知れません。監督は『LAコンフィデンシャル』でアカデミー脚本賞を取ったブライアン・ヘルゲランドで、その後の監督よりミステリー的な脚本を書いてヒット作も多いようです。デニス・ルへインのベストセラーでイーストウッド監督の『ミスティック・リバー』(2003)、リメイクの『サブウェイ123 激突』(2009)、イラク戦争のきっかけとなった大量破壊兵器の謎を描いた『グリーン・ゾーン』(2010)など。
 原作は前にもふれたドナルド・E・ウェストレイクの別名リチャード・スタークの1962年の作品The Hunter。翻訳のタイトルは『悪党パーカー/人狩り』。1967年ジョン・ブアマン監督がPoint Blankというタイトルで映画化しました。邦題は『殺しの分け前/ポイント・ブランク』。何故か「/」(スラッシュ)が多い。そして 1999年のPayback、『ペイバック』。 原作のタイトルと翻訳の題名、そして2本の映画化のタイトルと邦題、5つもあって混乱します。しかも原作の主人公はパーカー、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』の主人公はウォーカー、『ペイバック』の方はポーターです。こんなつまらない?事をいちいち調べ上げなくてもいいのにと自分でも思いつつ・・・