ケイパー映画の整理

先ほど『グランド・イリュージョン』という犯罪映画、またはケイパー映画に属するような映画を観て、前から気になっていた「ケイパーもの」について。犯罪小説または映画のサブ・ジャンルに「ケイパーもの」があります。いろんなサイトやウィキペディアでもその説明が部分的にはあってもスッキリしないので勝手に整理してみます。”caper”は”cape”の「行為主体造語」ではなく、最初から”caper”で、動詞としては「はね回る」、名詞としては「悪ふざけ、いたずら」そして「犯罪行為」という意味です。スモーク・サーモンの付け合せの小さな漬物は同じ単語ですが、こちらの発音はなぜか「ケッパー」。
さて「ケイパーもの」は視点が犯罪者側=主人公で、主として強盗・強奪を扱う作品です。強盗の準備や計画などについては、確かに犯人側でないと描けない訳です。もう少し詳しく言うと、資金調達・仲間集め・計画・実行・そしてたいがいは仲間割れか警察の捜査で失敗に終わる。強盗の対象は、主として銀行、それにカジノ、競馬場、宝石店など。最近はこの『グランド・イリュージョン』のように追う者と追われる者とを交互に描く映画もあり。さて主なケイパー・ムービーを挙げるとイメージがクリアになるかも知れません。
 『アスファルト・ジャングル』(ジョン・ヒューストン監督、スターリング・ヘイドン主演、1950)、『現生に体を張れ』(キューブリック監督、スターリング・ヘイドン主演、1956)、『オーシャンと11人の仲間』(ルイス・マイルストン監督、フランク・シナトラ主演、1960)、『華麗なる賭け』(ノーマン・ジュイソン監督、スティーヴ・マックィーン主演、1968)、『ホットロック』(ピーター・イエーツ監督、ロバート・レッドフォード主演、1971)。
 このようにジャンルの代表作を見てみると、その特徴が浮かんでくる。基本的にはプロのチームによる犯罪。プロフェッショナルが集まって計画を練るのが第1段階。それぞれの技術を駆使して、難攻不落の宝を強奪するのが第2段階。第3段階は司直(古い?)の手を逃れてハッピーエンドになるか、仲間割れをして終わるか。
 小説では『ホットロック』の原作がドナルド・ウェストレイク。彼の「ドートマンダー」(主人公の名前です)シリーズの一作です。そしてウェストレイクがリチャード・スターク名義で書いた「悪党パーカー」シリーズもケイパーものとして、たくさん映画化されています。2009年2月16日のブログでは、「悪党パーカー」シリーズの1作目The Hunter(1962)の映画化『殺しの分け前 ポイト・ブラック』(ジョン・ブアマン監督、リー・マービン主演、1967) と再映画化『ペイバック』(メル・ギブソン主演、1999)についてふれています。
 そしてオリジナルとリメークの違いがその時代の映画の特徴を捉える事にもなりそう。1960年代のオリジナル『オーシャンと11人の仲間』、『華麗なる賭け』、『殺しの分け前 ポイト・ブラック』はクールでスタイリッシュ。1990年代以降のリメーク『オーシャンズ11』(2011)、『トーマス・クラウン・アフェアー』(1999)、『ペイバック』は、余裕というかユーモアのある画風になっています。『オーシャン』は、オリジナル『オーシャン』もシナトラの仲間たち(ディーン・マーティン、サミー・デービスJr)、リメーク『オーシャン』ではジョージ・クルーニーとその仲間たち(ブラッド・ピットマット・デイモン)の内輪の和気藹々さが映画に遊びとゆるさ?を加えているような。
さて最新のケイパーである『グランド・イリュージョン』は、2重3重の構造になっています。犯人たちはマジシャンでその特技を使って宝石強奪を試みる。実はマジシャンでなくても犯人は、いろんなトリックや目くらましを使って、強盗をする。しかも『グランド・イリュージョン』では観客を欺くマジシャンが強盗犯でもあり、被害者や警察をだますので、誑かす構造が2重になっている。さらに監督はマジシャンを使って映画の観客も煙にまくようなエンディングを用意しているので、これは少し読み取るのが面倒な構造になっています。何か新しい犯罪映画を作ろうとして、創造の迷路に入ってしまったような。
 やはり犯罪もののサブ・ジャンルのケイパーとしては、『アスファルト・ジャングル』や『現生に体を張れ』のように、ハードボイルドでスタイリッシュだけれどシンプルなノワール路線で行ってほしい。
華麗なる賭け』のフェイ・ダナウェィ。