マック・ザ・ナイフとモリタート

マック・ザ・ナイフ」はボーカルでは、ジャズのエラ・フィッツジェラルドの名唱で有名ですが、ポップス寄りではパティ・ページ、ポップスではボビー・ダーリンが有名。けっこう複雑なリズムと構成の曲を乗りよく歌いこなしている。
 でもジャズではソニー・ロリンズが『サキソフォン・コロッサス』で演奏した「モリタート」に止めをさす。豪快で分かりやすいソロはテー・サックスの演奏のお手本とも言える。ロリンズはパーカーの様な天才型のプレーヤーと違って、ソロがそのままよくできた曲のように整っていない。行ったり戻ったりするような逡巡の跡が見えるソロも多い。しかし「マック・ザ・ナイフ」では、オフビートな曲調とロリンズのププレイ・スタイルがあっている。正確なマックス・ローチのドラムと、地味だけれどチャーミングなトミー・フラナガンのピアノもいい。
さて「マック・ザ・ナイフ」が何故「モリタート」と名前を変えたかについてはネット上でもきちんとした説明が見当たらないようです。「モリタート」という曲に「マック・ザ・ナイフ」の歌詞をつけたとか。では元の「マック・ザ・ナイフ」の曲はどこへ行っていまったのだろうか。それでは歌詞を書いたブレヒトはともかく、作曲のクルト・ワイルは墓の下で嘆いているかも知れない。
 で、多分これで間違ってないと思われる理由です。
 この曲の原題は "Die Moritat von Mackie Messer"。 英語では"The Ballad of Mack the Knife"または"Mack the Knife"です。ジャズで知られているもう一つの曲名「モリタート」が原題の冒頭の名詞"moritat"から来ているのはご想像の通りです。"moritat"は"mordtat"(殺人行為)を語源とする言葉で「大道芸人が手回しオルガンの伴奏などで語り歌う恐ろしい絵物語」(『小学館独和大辞典』)という意味ですが、それがもう一つの曲名として流通したんですね。「匕首マッキーのバラッド」という曲名が省略されて「バラッド」になってしまう事はないけれど、ドイツ語の「モリタート」だと英語圏では意味が分からないままに固有名詞のように考えられて(僕もそう思っていました)タイトルになったのでしょうね。